企業で働く立場である以上、広報パーソンもむろん、会社からの評価は逃れられないもの。しかし、こと広報に話を移すと、評価の難しさは事業部社員よりも根が深い問題をはらんでいるのではないか、と当社では考えています。この記事では「広報×人事評価」をテーマに、現場の広報部員に何を求め、何を評価するべきか、マネジメントの立場で解説します。
※この記事は下記のセミナー内容を再編集したものです。
どうする?広報パーソンの評価の現実と妥当性
登壇者
雨宮 寛二(プラップノード株式会社)
Campany COO
プラップジャパン入社後、PRコンサルタントとして大手半導体・消費財・ヘルスケア企業の戦略立案や実務を担当。後に新規事業部門に異動し、PR分野のデジタルツールや事業開発に従事した。2020年3月からプラップノードCOOとして、国内初の総合PR-SaaSツール「PRオートメーション」の企画開発・営業・運用の担当役員。共同創業者。
人事評価の満足度は
事業会社に所属している会社員にとって、人事評価は避けて通れないもの。ですがその評価自体に対しては、8割以上が満足していないことが調査の結果から明らかになっています。その内訳は、「評価結果に納得感がない」「評価者が信用できない」「評価理由に納得感がない」「評価項目・目標設定が不適切」などがあげられます。
この結果は広報部にも通ずるものがあるでしょう。むしろ広報は評価をするのが難しいこともあり、通常よりもこの傾向が強いのではないかとさえ予測されます。
広報パーソンの評価が難しい3つの理由
広報の評価が難しい理由として、
- 数しか追わない「掲載数」
- 「広告換算額」の不確実性
- 「リーチ数」と現実の乖離
上記の3つの問題があげられると考えられます。
まず前提として、広報・PRの世界では「掲載数」「広告換算額」「リーチ数」の三つを評価軸で捉え、それぞれの数値の昨年比110%を目安に目標設定をするケースが往々にしてあります。下記の画像は架空の数値です。実際ここまで機械的にやっている企業ばかりではないとしても、このような指標を取り入れている組織は多いように感じます。
この指標の問題の一つは、「広報ネタの豊作・不作」を考慮できない点にあります。
年度によって、世間から注目を集める新商品が出る、大きなリニューアルがある、話題のスポットに新しく出店するなど企画の持ち玉の大きさに差があることは、実際に広報業務に取り組まれている方なら実感しているところだと思います。対して、そういったイベントが全くなく、発信情報が不作になる年もあります。こういった状況化で、単純に昨対評価で個人/組織の実績を測るというのは、現場の広報パーソンからすれば不満に感じるのは道理ではないでしょうか。
昨対比で測ること自体が悪いのではありません。先に述べたように「掲載数」「広告換算額」「リーチ数」この3つの評価軸自体が課題を抱えていることが問題の本質といえます。
では具体的に何が問題なのか、一つずつ解説します。
数しか追わない「掲載数」
掲載数については、数のみを追うことで「掲載のグレードを評価できない/しない」ことにつながる危険性をはらんでいると考えられます。
大手新聞社に掲載されることと、Webの主要メディアで特集されることと、PVが大変多いが自社のステークホルダーと接点の少ないメディアで掲載されることの価値は、必ずしもイコールではないはずです。
そもそも掲載数が100であり、それ以外の活動が0になってしまうことが乱暴な話だという見方もあります。広報活動を行う上で、掲載に至るまでにメディアリレーション、戦略、情報の編集や仕込み、調査、取材管理、危機管理や、さらにもっと細々とした対応に至るまで、広報部は実にさまざまな業務を抱え、それを実行しています。
掲載数を指標にすることで「では危機管理を行っている私たちの仕事は評価されないのか?」といった不満が出ることもあるでしょう。そこまで単純な話ではなくとも、評価軸が定量化されていないために評価につながらない業務を続ける広報パーソンは多いのです。
「広告換算額」の不確実性
広告換算についてもやはり問題があります。広報業界に身を置いている方であれば、今や広告換算自体それほど信頼できるものではないという風に感じている方もいるのではないでしょうか。
広告換算は、露出に対して「もしここで広告で買ったらいくらかかったか」という考えで金額換算するものですが、そこには必ず不公平さが含まれるという問題があります。
たとえば大手ポータルサイトに掲載されることは、広告換算で割り出すと高い価値があるものだと考えられます。しかし一方で、一日に数千件のニュースを発信しているポータルサイトでの掲載は、難易度としてそこまで高いものではありません。結果としてもほとんど誰にも見られず掲載終了する記事もあります。ただ、トップページに掲載されたり注目のトピックスとして露出したりしたとなると話は別です。この場合、数百万クラスの露出につながることもありえます。この2つのケースの露出を同評価するのがおかしいことは誰が見ても明らかだと思います。
さらに、PR会社ごとに独自で算出された広告換算費にはズレがあります。
外部に依存した数字を追っていると、PR会社を変えたときに結果の数字が上がったり下がったりしがちという現実もあります。そうなると「外部の数値の差異や、効率よく掲載獲得できるWebメディアを知り、対策すれば勝ち」ということになってしまいます。しかしそれは本質的に「いい仕事」と言えるでしょうか?
有効なコミュニケーションを取って有効なメッセージを出せる人材、有名でなくてもステークホルダーの多くが見ている媒体にきちんと掲載できる人材、そういった広報パーソンが評価されにくい環境になってしまうことは、会社にとっても損失になるのではと思います。
「リーチ数」と現実の乖離
このような広告換算の不安定さを解消するためにリーチ数という指標があるわけですが、Web媒体にしろ新聞にしろ、どれくらい見られたかを割り出すのは難しい問題です。外部ツールを使って推測するしかありません。
推測できないものは苦肉の策で、媒体まるごとのリーチ数を計上することになりがちです。そうすると数億、数千万といった巨大な数字があがってきます。これが現実と乖離しすぎて、意味を見出しにくいという問題があります。
疑問符がついた指標を掲げ、それを目標として設定し追いかけるために業務を行うことが、広報担当者の疲弊につながることは想像に難くないと思います。仕事である以上結果を出さなければならないので、手は動かすけれど不満は絶えない。このような負のサイクルに陥ってしまうんです。
この問題の根源は、広報独自の伝統的な環境と慣習にあると思います。
関連リンク:広報独自の伝統的な環境と慣習とは?広報マネジメントを導入し、成果につながる広報組織をつくる
では、広報パーソンの評価はどうすればいいのか?
これらの問題をまとめて考えると、「広報を正当に評価するためのデータが収集できていない」という問題に行きつくと思います。広報・PRの世界では長年、そのデータとは何なのか、その定義がなされずに来ました。
このような状況の中で、当社ではさまざまな企業との対話を通じて「この企業が指標とするべきは何なのか、そしてそれはどのデータから読み取れるのか?」といったことを考え、整理し続けてきました。その結果を形にしたのが下記の図です。
これは広報業務を「行動」と「成果」と「インパクト」の3つの軸に分け、その中で色々な指標を分けて捉えようという趣旨のものです。
「行動」はその名の通り、行動量です。リリース作成数や配信数です。さらにそれに伴うメディアリストを加えた数など、広報業務の基礎的なところです。
「成果」は行動の結果です。クリッピングの種類、編集記事数がどれくらいあったか、重要媒体にどれくらい掲載されたかなど、本質的で意味のある数字を置きます。ここに広告換算があっても良いです。
「成果」の中のプロセスとある箇所は、混乱される方もいるかもしれませんが、昨今ではツールを用いてリリースの既読率を測るであるとか、関連リンクがどれくらいクリックされたか、PDFをどれくらいダウンロードされたか…を可視化するのはマーケティングに限らずスタンダートなやり方です。ここが可視化されるとやったことに対しての成果が見え、評価の妥当性も高まります。
3つ目の「インパクト」は、会社の経営課題にどう貢献したかという軸です。会社の売上に対して、掲載がどういう風に寄与したか?店頭、あるいかECサイトに訪問した顧客は増えたのか。問い合わせの数やSNSの投稿でもいいでしょう。広報の活動がどれだけインパクトを与えられたか、という箇所です。
この「インパクト」については、現場の広報パーソンの手のひらを範囲を超えたところにあるものだと思います。経営が欲しい「直接的な経営課題に資するもの」がインパクトの部分です。
野球にたとえてみましょう。「行動」は打席に立った回数。「成果」はヒット数です。「インパクト」は点数になります。経営はゲームに勝ちたいので「インパクト」が欲しがりますが、広報部としてやれることは「行動」を精査して改善サイクルを回し、ヒットをたくさん打つということだと思います。
「行動」と「成果」は直接の因果関係で結び付いているので、これについては向上と成長が明らかに見えるのかなという風に思います。
一方、「成果」と「インパクト」の間には深い壁があります。Webメディアでかなりバズった良い記事が出ても、その日の、たとえば店頭の売り上げにすぐに跳ね返るかということはそんなにわかりやすくは言えなかったりします。一緒に広告を回しているケースも多いでしょうし、単純に広報だけの成果だと断言することができません。
評価する側が意識すべきことは、「成果」と「インパクト」の間には深い溝がある、そのことを認識することです。もちろん広報部も最終的にはインパクトのために戦います。しかし、まずできることは「行動」をきちんと磨いて「成果」を出していくことです。最終的なインパクトを見据えて、良い掲載を取ることが、広報がまずやるべきことなのですから。
現場の広報パーソンの評価は「行動」と「成果」で行うべき
「行動」と「成果」を整理し、PRのメディアリゼーション系のスタッフは主要な評価エリアをここに設定します。その際、インパクトを簡単に巻き込まないようにするというのが大事です。
「成果」を改善しても、「インパクト」につながるかは戦略の問題になってきます。これはどちらかというとマネジメントが試される領域となるでしょう。もちろん、ある広報活動がインパクトとして結果を出せたのではあればそれはチャレンジが成功したいうことで、高く評価すべきです。「行動」と「成果」を評価しつつ、「インパクト」もきちんと視野に入れたスタッフを育てることが大切だと思います。
無理なく運用するコツ
この評価方式をどうやって運用するのか、という疑問が出てくると思います。まず行動指標や成果指標を設定してください。それを1Qから4Qの合計達成率で評価します。
私たちがおすすめしているやり方は、初年度はあえて目標を立てないということ。一つの目標に対して、自分たちがやったこと、やれなかったけれどやるべきだったことをQごとにきちんと管理し、月間単位でレポートにすることで、自然とやらなければならないことがはっきりしていくと思います。
ここでのポイントはレポートを作ることが目的にならないようにすることです。個々のスタッフは日々の業務で忙しく、常に混乱の中にあります。レポートは可能な限り自動化して、簡単に振り返ることができる形にすることが望ましいです。手前味噌ですが、私たちの提供するPRオートメーションでもレポートの自動化が可能です。
関連記事:評価につながる年間広報レポートの作り方
関連記事:レポート作りを大幅時短。省力化で広がるBtoB広報の可能性。
指標が整理されるだけで、さまざまなことが改善すると思います。既読数や資料ダウンロード数などが可視化されることで、「この記者はこんなことに関心があるんだな」「あの人の作ったリリースは色んな人に読まれる、いいプレスリリースを書ける人だ」などといったことがわかります。こういった客観的な数字は説得力もあるので、実際に見ていただくととても良いシナジーを生み出すことを実感されると思います。
より良い評価とPRのために
今回の内容は、結局すべて「より納得感のいく評価のために丁寧に仕事を見ていこう」というところに着地する話です。
こんなにたくさんの項目をすべて見るなんてあり得ない、という意見もあるでしょう。しかし今日ではすでにさまざまな情報が可視化されていて、それが当然の時代なのです。「おそらくこうだろう」で動く世界は、広報を含めてもう終わったという実感を持っています。
PRの活動も、色んなツールを使って自動化を検討し、業務を楽にした上で妥当な評価をしなければなりません。データ化することで掲載の総数や編集記事、メディアリレーションが可視化され、自動で算出されていく。その結果をもとに評価シートを埋めていくと、実質の工数負担がないまま、評価する側もされる側も説得感のある評価の仕組みを作れるのではないかと思います。
当社の『PRオートメーション』は、重要媒体の指標や、どのクリップがどのリリース由来であるか、編集記事と転載の記事の識別、さらにSNSでの反響はどうか、といったことを自動で算出することができます。PRに長年身を置いてきた立場として、現場が疲弊せず、納得感を持って働くために必要なあらゆるデータを取れるように作ったものです。お問い合わせや資料請求、ご相談はこちらから受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。
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