年度が変わり、新たに広報部に配属されたという人や、広報を立ち上げたという組織も仕事に慣れてきた頃ではないでしょうか。中には「このやり方で本当に合ってる?」「広報やって〇年目、頑張ってるのに評価されないんだけど…」という人もいるかもしれません。
そこで本コラムでは、10年以上の広報経験がある当社COOの雨宮と、カスタマーサクセスマネージャー古川が「失敗しがちな広報戦略」を切り口に、原因の考察や対策について対談を行いました。広報パーソンの評価や広報業務の未来についても波及した対談の様子をお届けします。
雨宮徳左衛門
プラップノード株式会社 Campany COO
プラップジャパン入社後、PRコンサルタントとして大手半導体・消費財・ヘルスケア企業の戦略立案や実務を担当。後に新規事業部門に異動し、PR分野のデジタルツールや事業開発に従事した。2020年3月からプラップノードCOOとして、国内初の総合PR-SaaSツール「PRオートメーション」の企画開発・営業・運用の担当役員。共同創業者。
古川貴洋
プラップノード株式会社 カスタマーサクセスマネージャー
新卒でプラップジャパン入社後、約8年に渡って外食チェーン・IT・レジャー施設などのPRを担当。商品PRからコーポレート広報まで幅広い領域を経験。2021年よりプラップノードに移り、CSマネージャーとしてさまざまなクライアントを担当するほか「PRオートメーション」の企画開発にも携わる。
目次
広報立ち上げ時にあるあるな失敗パターンとは?
広報戦略に正解なし?自社を知ることで可能性は無限に
デキる広報は「メディアの特性とその未来を捉えられる」人材
広報の未来はどうなる?
広報立ち上げ時にあるあるな失敗パターンとは?
ー「広報を立ち上げてみたものの、いまいち何をやっていいかわからない」「方針が定まっていない」という相談を当社でもよく受けると思います。広報立ち上げ時に陥りがちな失敗のパターンって何かあるでしょうか?
雨宮
ありがちなのは”妄想の広報戦略”で動いちゃうことですよね。つまり、信頼性の薄い数字に基づく戦略を何となく掲げて、それに沿って動いてしまう。
広報の成果として数字目標を掲げる場合、その数字ってどうしても「パブリシティ数が~」とか「リーチ数が~」みたいな話になるじゃないですか。その数字が果たして妥当かどうか?と考えたとき、基本的に妥当じゃないことの方が多くなる。
古川
伝統企業とか大手企業はPRの積み重ねがあるから「これぐらい露出したら成功じゃない?」みたいな肌感・基準が組織としてありますが、今から立ち上げるっていう場合はそれがない状態で始めるから…やっぱり、過去にPR経験がある方を引っ張ってくるって形しかないんじゃないかな、と思います。
雨宮
ドラマみたいに、社内から人を引っ張ってきて「今日から君が広報をやるんだ!」みたいな話は、やっぱりドラマだからいいのであって。現実ではほぼ実現不可能なんじゃないかな。マーケティング部門の人が抜擢されるとかはあるかもしれませんが。
広報ってどうしても特殊技能というか、普通にビジネスマン人生を送ってると触れ合わない類の仕事なんですよ。だから未経験でいきなりってなると難しいよね。
古川
人の問題もそうですが、そもそも何のための広報がいるのか企業としてはっきりしていないのも失敗の要因じゃないかな、と思います。
広報を立ち上げることが目的になって、何がゴールなのかが、どうして立ち上げたいのかがはっきりしてないことの方が多い。手段が目的化してしまうと、結局「何のために広報やってるんだっけ?」「うちの会社に広報って必要なんだっけ?」って話になってしまう。
雨宮
“広報”の概念自体が人によってバラバラすぎるんですよね、きっと。
古川
社長の言う広報と、現場が思ってる広報が全然違うみたいなことはよくありますね。それは「なぜ広報が必要なのか?」っていうところを突き詰められてないことに起因すると思うんです。「情報発信しました、けど結局これって何につながるんだっけ?」ってところが言語化できない。
雨宮
何をしたらその会社にとって広報の成功なのか、ってことがうまく定まってないと、 ことごとく全部失敗に見える終わり方をするというのは実感として感じています。
広報をやり切った後に幸せな状態とはどんなものなのか、ちゃんとそこを考え抜けば、実効性ある広報戦略を作ることはできるかもしれない。そのためにきちんと経営層をまきこんで広報のゴールを決めておく。口で言うほど簡単ではないけど…。
広報戦略に正解なし?自社を知ることで可能性は無限に
ー広報のゴールを決めるのが大切だけれど、それを定めるのがそもそも難しいと?
雨宮
そうですね。難しい。企業の規模や業態によって広報のゴールは明らかに違う。
たとえば大手企業だと、パブを取るため、ではなく、メディアの問い合わせとか取材にきちんと丁寧に対応して、その関係をよくしておく、それ自体が戦略になるって側面もあるんですよ。
古川
そうですね。メディアと仲が良いことで正しい情報を伝えられるっていうのはある。
雨宮
たとえば、ものすごくコストをかけて企業努力をしてきたけど、それでも事故や不祥事が起こってしまったというとき。常日頃から注意していたけど起こってしまった、という切り口でニュースになるのか、批判一辺倒でニュースになるのかでは企業損失に大きな差が出ますよね。
古川
僕はカスタマーサクセスとして色んな広報さんと接していますが、メディア担当者が変わったタイミングで挨拶を兼ねて業界全体の情報共有もして、仲良くなった状態でやり取りをするっていうことを心がけてる企業さんもいらっしゃいますね。
雨宮
業界・競合情報の収集、大事ですね。当たり前にやるべきことと言ってもいい。
古川
はい。自社のクリッピングだけじゃなくて、競合他社があのテレビでこの商品を紹介するから、自社の類似商品も見つけてもらいやすいようにホームページやSNSに導線を作っておく、みたいな工夫もされてますね。立ち上げ期はそういった「こういうネタがメディアに受けるだろう」とか「このタイミングがチャンスだな」みたいなことがナレッジとして溜まってないので、当てずっぽうになっちゃう。
経験を積み、多方面に心を砕いてコミュニケーションをとるのは、広報パーソンとして当たり前のことではあるけど突き詰めると結構難しい。さらに、こういったスキルを持っている人がちゃんと評価してもらえるかどうかっていうところもまた別の話で……広報の仕事って、正当に評価されない構造になってるなと感じることも多いです。
雨宮
広報の評価については、以前もセミナーでもお話しましたけど、なかなか難しい問題があったりします。
たとえば人気の俳優が大手のCMに出るってなったら、リリースの発表会には全局来る。それは企業名や俳優のネームバリューもあるから、そうなるんですよね。
一方で、地味であんまりメディアが集まらない企画もあります。メディア関係者が二人くらい来てくれたらラッキー、くらいの規模感のもの。
どっちの企画でも広報は頑張るんですけど、この二つの企画を並べたとき、誰がどのように”成功”を定義できるのか。企画の玉の大きさと露出の関係を捉えないと成功・失敗の評価ができないし、どこにコストをかけるかって問題も宙ぶらりんになる。
古川
広報のゴール設定をしていないと、マネジメントする側も広報をどう評価していいのかわからなくなっちゃうんですね。
パブにしても「あのメディアで取り上げられて、それで経営にどんな影響を与えたのか」を測れるのはゴールがあってこそ。特に立ち上げ期は、上の理解も含めて組織をどう形成していくのかが重要になる。
デキる広報は「メディアの特性とその未来を捉えられる」人材
ー先ほどパブやクリッピングの話が出ましたが、パブリシティ的な広報戦略についてはどうお考えですか?
古川
雨宮さんが言ってたことですが…大手メディアに1回載るより業界紙に10回出た方が意味がある、っていう。
雨宮
これは当社の話なんですが、「PRオートメーション」をローンチしたときに、私たちも広報をやったんですよ。で、大きなメディアさんでも取り上げてもらって、広告換算額とかリーチ数だと結構な数いったんじゃないかなと思います。でも、問い合わせという形の反響はなかった。いや、そっと誰かの心を変えてると信じてはいますけど…。
でも、本当に本当の広報業界人しか読まないようなメディアに載ったり、寄稿したりすると、来るんですよね、問い合わせが。だから、業界紙のインパクトってでかいんだなあって改めて感じてます。
古川
「テレビじゃなくて、日経新聞でもなくて、地味だけどステークホルダーがちゃんと読んでるこの業界紙に出た方が良い」って意見できる広報パーソン、貴重ですよね。でもそれって結局経験に裏打ちされた広報の勘みたいなものに左右されるから、難しい。
雨宮
経営者の多くはパブリシティの目標として「日経新聞に掲載されたい」って言うんですよね。でも、日経新聞に掲載されてる企業って上場企業ばかりで、非上場企業の情報は掲載されない。新商品や新サービスの情報も、基本的なルールとして非上場の企業は載れないんです。
「日経に載りたい」と言う企業の中には、「それはメディアの特性上、現実的に無理なんです」っていうことが普通にあるけど、その情報は開かれていない。
このすれ違いはメディア理解の不足もあるんですが、それ以前に、経営者は自分たちのやっている事業のことを「特別だ」と考えているという問題があります。いや、問題じゃないかな。事実ですよね。一生懸命やっているから、当然、特別なんです。でも、その一生懸命さが冷静さを失わせることもある。つまり、本当は全然特別じゃないんですよ。だって特別だと声高に叫ぶ事業の情報が一日500もくれば、すべての事業は凡庸に見えるでしょう。凡庸な事業の情報をそのままプレスリリースにしてもメディアに取り上げられるわけがない。メディアが欲しい形に加工したり調整しないと。
優れた広報は、その客観的な事実をきちんと経営に指摘できる力が必要ですよね。そして、じゃあどういう広報活動をすれば会社にとってプラスになるのかを明確にしないといけない。それってすごく難しいけど。
古川
そうですね。僕は「PRオートメーション」でそのあたりの広報の勘所みたいなことを可視化できればいいなと思ってるんですよ。たとえば過去一年の傾向から「こういう情報があればこの業界紙での記事化につながる。でもテレビ露出したいならこういう工夫をしないと無理だ」みたいなことがわかるようになればいいな、と。
実際「PRオートメーション」をうまく利用してこういったことを可視化している企業さんもいらっしゃるんですが、もっとシンプルに、誰でも手軽にそういうことができるようになればいいなと。
ーお話を伺っていて、ひと口に「広報」と言っても、広報活動をしやすい環境・しにくい環境にいる人がいるのかな、と感じました。
雨宮
それはあるでしょうね。企業文化的なところもそうだし、事業戦略のレベルで広報が組み込まれているような例もあると思う。そういう会社って見たことあります?
古川
いらっしゃいますね、商品開発の段階からアウトプットまで「話題にされやすい」「手に取ってもらいやすくする」「他の商品とは違うユニークさ」みたいな視点を社員全員が持っている企業さん。そこを一気通貫でできているのはシンプルにすごいなと思います。
雨宮
そういう会社は広報がしやすい環境ってことですよね。でもじゃあ、反対にしにくい人たちは?
正直、別に広報しなくてもいいんじゃないかなという会社もあるよね。……PRツール作ってるのにこんなこと言ったらまずいかな?(笑)
古川
(笑) いや、正直あると思います。広報がいらないかはわかりませんけど、商材によっては、メディアに露出するよりインフルエンサー使った方がいい、っていう企業もあると思いますし。
雨宮
メディアに露出するよりインフルエンサーっていうんだったら、そっちの方が正しい戦略の場合はあるよね。それで売り上げが上がるなら。
あとは、ユーザーの生の声を口コミサイトに掲載してもらうみたいなことの方が重要って企業もあると思います。その声自体は、本当に限られた人の目にしか届かないんだけど、エンドユーザーがその「限られた人」ならそれはそれで成功の形なのでは?と。
古川
広報の概念としては、ステークホルダー全体に対して自社のレピュテーションを上げたりとか、関係性を良好にするっていう定義があるので。今の話だと、エンドユーザーがステークホルダーで、その方々にリーチすればよくない?って話になる。
最初に話したこととつながりますが、それが広報のゴールなら、ちゃんと経営層と相談をして、そうと決めておくのが持続可能な広報活動なのでは、と思います。
雨宮
何をすれば会社の利益につながるのかちゃんと確認しておくってことですね。あとは、広報や自社を取り巻く環境も変化しているから、それをキャッチアップすることも重要。
ひと昔前はマスメディアのことを考えていればいいやって考えも人もいたかもしれないけど、もう今、そんな時代じゃない。
メディアの語源はラテン語の「medium」なんですが、これは「媒介」とか「中間」「真ん中」という意味の言葉なんです。広報の分野でも、人と情報の「真ん中」にあるものが、マスメディアだけではなくなってきていると強く感じています。オウンドメディアやソーシャルメディアの存在は無視できない。ターゲットメディアを決めるときに、誰がどんなメディアの後ろにいるのかしっかり見極めなくちゃ。それがX(旧Twitter)やインスタグラム・YouTubeなんだったら、広報部門であってもそれを”メディアリレーション”することは、それはそれで一つの戦略だと思います。
古川
ホームページをきっちり作り込むとか、検索してくれる人を逃さないようにするとか、キーパーソンと会食するとか、そういうことがパブに出るより重要なことはたくさんあるような気がします。資産としても残りやすいですし。
……でも、それが広報パーソンの評価にはつながるとは限らないんですよねえ。
雨宮
環境との関数でできてるんですよ、広報って。自分がまっすぐ努力をしたらそれがそのまま素朴に成果に出るとかそういう世界ではなくて、しても無駄な努力が山ほどある。取り巻く環境との関係で自分の振る舞いや発信の方法をかえることで成長や成果が大きく変わる、よく言えば高度な世界。
その本質をマネジメントする人がわかっていると「いいからとにかく手を動かせ」みたいな話にはならないんじゃないかな、と思う。
広報の未来はどうなる?
古川
当社のマーケティング部に、PR経験のないメンバーがいるんですけど「知れば知るほど、広報を3年やったら辞めたくなる気がする」と言っていて。それはなんで?と聞いたら「成果が数字で見えないのがつらい」と。
確かに、広報は取り巻く環境の影響度が高いこともあって、ロジックで目標を立てにくい、それがつらいっていうのはありそうですよね。
雨宮
手前味噌なんだけど、それ、「PRオートメーション」があると楽しくなると思う。
古川
そう。そう思います。
雨宮
すごくシンプルなことなんですけど、クリッピングを自動集計して誰が見ても同じ数字がパッと出てくるのって、広報を長年やってきた人こそ喜びを感じるところだと思うんですよね。それができないっていう環境が、今まで広報の魅力をすごく削いでいたと思う。
マーケティングだって、PVやUUを測るのに手動で計測しましょう、作業には一週間はかかりますよ、となったら楽しくないし、つらいと思うんです。広報はずっとその状態だったんですよね。人が介在して、Excelに一つひとつクリッピング履歴を転記していく世界だった。
古川
導入事例に出ていただいたクロスプラスさんの例ですが、新聞で新商品が取り上げられて、それが結果的に購買にもつながったという話、すごくいいなと思ったんです。でもそれを測れるのも、個々のデータをすぐ抜き出すことができる環境があるからなんですよね。
雨宮
売上や棚データ、PVデータと露出の関係を、日割りや時間割りで比較して見れるになるというのはとてもインパクトがあることだと思います。だって、今まではそれがない中で戦ってたんだから、広報って。
古川
メディアの変遷や重要媒体というところも「PRオートメーション」を使えば割り出すことができますもんね。みんなが同じ視点で、この記事はSNSで話題になったからこういう効果があったよね、とか、次はここに注目して改善していこう、とか、そういう目線合わせも今までよりできるようになっていく。
「この売り上げの成果って、広報のアクションが影響しているよね」っていうことをもっと可視化できるようになったら、モチベーションにもつながっていくと思います。
雨宮
広報のDXって、そういった基礎的なデータをいつでも誰でも取り出せるようにするってことなんだと思います。とても素朴なとことだけど、広報世界全体を変えるような大きな地殻変動になりうると思う。
「みんなが同じデータを参照して戦略を立てられる」というのは、広報業務にとってはものすごい変化だと思っています。経営層と広報のゴールを決めるという難しい課題も、データを指標にして目線合わせをすることでやりやすくなる。同じ言語で話せている状態になる、というのかな。
古川
たとえば定期開催のイベントをやって、印象としてはパッとしなかったんだけど、ちゃんとデータを読み解いたら「実はこういう切り口から見ると、去年より今年の方がすごかったんだね」と言えることってあると思うんです。それって目に見えた成長だと思うんですけど、データがない世界だと、そういった手触りがない中で仕事をしなきゃいけない。そういうことですよね。
雨宮
その通りです。これが今までの広報はすごく難しかった。でも、今はそれがもうできる時代。ぜひツールを……それが「PRオートメーション」だと嬉しいですが(笑)……とにかくツールでデータを収集して、うまく活用してほしい。そしてすべての広報が幸せな状態になればいいなと、本当にそう思っています。
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