塩尻市観光協会

計測可能なものに投資を。アナログ×デジタルが地方自治体の広報成功パターン。

業種

その他

従業員数

11名~100名

目的・効果

記事化アップ

コロナ禍の観光客減に嘆く地方自治体が多いなか、情報発信の手を緩めず、積極的に仕掛けているのは長野県塩尻市の観光協会。「駅のホームから生まれたワイン」や「漆塗りのハーレーダビッドソン」など、地方の名産品を意外性のある組み合わせで発信し、世界から注目を集めています。

「“昔ながらの”やり方しかしていない時期もあった」と振り返る、塩尻市観光協会 事務局長の小嶋正則さん(写真左)と、主任の鳥羽和久さん(写真右) 。変革のきっかけは、地域ブランドの浸透度合いの低さを目の当たりにしたことでした。大きくDX化に舵を切り、観光客が見込めない時期にこそ目指すものを見つけたお二人。塩尻市の成功から見える、地方自治体広報の新定石とは。

※役職は取材当時

「数値化できないものは追わない」大胆な変革

Q.『PRオートメーション』導入以前は、どのような広報活動を行なっていたのでしょうか?

小嶋さん:観光協会としては、市が主催のイベントへの誘客を一番の目的としていました。しかしその方法は、リリースをFAXでローカルの媒体に送付し、市のHPに情報を掲載するくらいでした。来場者数は正確には計れないものですし、増減の原因が突き止めにくいのが課題でした。

鳥羽さん:あるとき、市としてのブランディングがどこまで浸透しているのかを計測するために大がかりな調査を行ないました。すると、市で掲げている「ワインと漆器のまち」というイメージが全く浸透していないことがわかりました。なかでも、消費を引っ張る20〜50代の女性へのアピールが不足していることがわかり、その点に注力することを決めました。

Q.具体的にはどのような施策を始められたのでしょうか?

小嶋さん:まず行なったのは、多くの女性の情報収集のチャネルとなっているWebへの導線をしっかり設計することでした。その効果を正確に測るためにも、「計測可能なものしか追わない」と決め、広報のDX化を推し進めていきました。

Q.DX化を進めるうえで、『PRオートメーション』の、どのような点が導入の決め手になったのでしょうか?

小嶋さん:実は我々としても思い切った予算投下でした。今まではFAXを使い、ほぼ無料のような金額で送っていたリリースを、『PRオートメーション』という有料のツールを導入することになるわけなので。ですが、今までリーチできていなかったWeb媒体を始めとする多くのメディアに一気に配信ができること。そしてリリースの開封率や、その後ネットメディアに掲載された場合の推定PV数、広告換算額、SNSでのバズも算出できることから、メリットの方が大きいと判断して導入を決めました。

鳥羽さん:結果として、リリース配信時の瞬間的な情報発信力が大幅に上がりました。算出された数値を見れば課題が明確で、PDCAを回しやすくなりました。今までは接点が少なかった専門媒体への掲載が見られたことも、嬉しかったですね。神社へのお参りの動画をあげたら、神社の専門媒体に掲載されたときは驚きました。

Q.Webへの注力という方針変更の手応えをどのように感じていますか?

小嶋さん:このコロナ禍においては、特に効果を感じています。今はまだ実際の誘客はできず、市としても今は我慢のとき。ですが、何も発信しないと忘れられてしまいます。情報を絶え間なく、半永久的に残せるWeb上に定期的に載せ続けていくことで、また旅行ムードが戻ってきた時に目的地の候補にあげてもらえる。実際、コロナ禍でも発信をつづけてきたことで、市のHPへのアクセスは、国内外問わず増えています。

「ワインと漆器のまち」ブランディングに大きく前進

Q.塩尻市を世界に知らしめたのが、塩尻駅のホームに広がるぶどう畑でした。

小嶋さん:アメリカ、台湾、ドイツ、ロシア、オーストラリアなど、海外からの問い合わせの多さに驚きました。「日本で唯一の、駅のぶどう畑」と銘打ったところ、いつのまにか「世界で唯一」と書かれて(笑)

Q.駅を降りたら、ぶどう畑が広がっているなんて、日本人にもびっくりです。この企画はどのように生まれたのでしょうか。

小嶋さん:このぶどう畑自体は昔から駅にあったもので、地域のワイナリーの方やボランティアの皆さんと協力して手入れをしていたものでした。ですから、地元の人からすれば通勤や通学時の当たり前の光景だったんです。

鳥羽さん:それを、PRのブレーンとして一昨年から一緒に活動している 方が面白いと目をつけてくださり、手入れの様子を発信することになりました。ちょうど市政60周年のタイミングでもあり、このぶどう畑のぶどうからワインを製作するというタイミングも重なっていたんです。

Q.駅のぶどう畑でつくるワイン・・・!気になりますね。

小嶋さん:しかも、メルローというワイン用ぶどうはとても人気のある国際的な品種になります。企画は意外性がありますが、ワインに関してはいたって真面目。塩尻市のメルローといえば世界的にも評価が高く、海外のコンクールで金賞を受賞したこともあるため、かねてからワイン好きの間ではよく知られていました。

Q.市の資産として、着実にファンを増やしてきたものが、デジタルの力で一気に世界に広がったんですね。

鳥羽さん:そうですね。今まではコアなファンの間で人気を集めていたものの価値が、新しい層にも再認識されてさらにバズが起きたと分析しています。

Q.「ワインと漆器のまち」のもう一つ、木曽漆器も2021年初頭からバズをおこしています。ハーレーダビッドソンのハンドル、タンク、サドルなどに漆を塗ったクラシックハーレーが、バイクファンの間で話題を呼びました。

小嶋さん:木曽の山々の良質な木材に漆を塗った木曽漆器は、寛文5年(1665年)頃に生まれ、発展してきたこの地域の伝統工芸品です。美しさと丈夫さを兼ね揃えた、普段使いの漆器として親しまれてきた一方、最近では若手の職人が新しい発想でその魅力を再発信しています。

鳥羽さん:その若手職人のなかでも、皮革製品に漆を塗るなど斬新な製品を生み出していたのが、塗師(ぬし)の岩原裕右さんです。「紫外線に弱い」という漆の特徴を、皮革製品と同じように、「時とともに変わる味わいを楽しむ」と、ポジティブにとらえ、漆とバイクを掛け合わせるという発想はさすがだなと思いました。

Q.そうした企画をPRするにあたり、広報としての狙いはどこにあったのでしょうか?

鳥羽さん:コアな層を狙い、リリースの中にもハーレー好きに響くようなマニアックな単語を散りばめました。1960年代のエンジンの形式の名称など、一般的には知られていない内容をあえて丁寧に説明することで、モーター系の専門誌が取り上げ、そこから多くの方にシェアされ、さらにマスメディアにも取り上げていただくまでになりました。

Q.狙い通りだったわけですね!テレビの取材も入ったそうですが、初めから首都圏のメディアに取り上げられたのでしょうか?

小嶋さん:いえ、最初は日頃からコミュニケーションをとっているローカルの媒体が取り上げてくださり、そこから徐々に広がっていきました。驚いたのは、中日新聞さんが各メディアの取材を取り仕切ってくださったことです。取材がひっきりなしに来ては職人さんの手も止まってしまい、商売が止まってしまいます。ハーレーを走らせて撮影をするにも、そうなんども公道を占拠できません。そうした地元事情に精通した新聞社さんの協力がなければ、スムーズな取材対応は難しかったはず。大変ありがたかったですね。

Q.日頃から、ローカル媒体との関係性を築いているからこそスムーズな取材につながったということですね。

鳥羽さん:企画としても「ハーレーダビッドソンと木曽漆器」という斬新な組み合わせが注目されましたが、日頃から地域の職人の方々と情報交換を行なってきたこと、さらにこれまでに培った塩尻市と地域メディアのネットワークがあったからこそ、狙い通りの発信が円滑に実施できた。「全国区」「新しさ」を狙いながらも、地方自治体ならではの「地域密着」を忘れてはならないと感じます。

Q.地方自治体のニュースが首都圏に届くメリットは、どのような点に感じましたか?

小嶋さん:観光客の増加以外の点では、ビジネスの可能性が広がることです。今回の漆の件でも、既存ブランドとのコラボレーションの提案をいただきました。地方の伝統工芸技術に価値を見出し、現代のニーズに合わせて製品化する嗅覚というのでしょうか、そういったものはやはり都心の方々の方が優れています。ビジネス感覚の鋭い方に見つけていただく方法としても、より消費活動が活発な都心に情報を届けることは有効だと感じます。

デジタルとよそ者の力で、眠れる資産を掘り起こす

Q.「ワインと漆器のまち」という市のキャッチコピーに沿い、着実にブランディングを進めている塩尻市ですが、地方自治体の広報活動としてこれから大切になっていくことはなんでしょうか。

小嶋さん:一つは、「アナログとデジタルの掛け合わせ」です。地域の情報は足を運んで集める、会って話をする。その情報をより広い範囲に届けるには今後デジタルの導入、つまりDX化が欠かせません。

鳥羽さん:とはいえ、デジタルマーケティングの専門家が必ずしもその地域にいるとは限りません。そこで大切になるのが二つ目の「第三者視点のパートナー」をもつことだと考えています。ワインや漆器は、我々にとっては当たり前になりすぎており、「面白さ」が見つけにくくなっていました。あえて“よそ者”視点を持つパートナーをブレーンにすることで、眠っていた資産に気づけました。

Q.中からの情報収集と、外からの広報視点が大切なんですね。DX化に関しては、新しい指標の導入ハードルが高いという自治体も多いと思います。

小嶋さん:実際、我々もいまだに悩んでいる点です。今まではイベントの来場者数を指標に据え、前年比の数値が評価対象でした。今はリリース毎の開封率と広告換算額やHP、SNSなどの詳細なアクセス解析をベースにPDCAを回すようになりましたが、具体的なイメージが湧きにくいという声もあるのは事実です。実際に人が塩尻市に来て、消費活動をしてもらうというアクションと結び付けづらいという意見は、変革期には当然出るものです。

鳥羽さん:ですが、今まで通りのやり方のままでは、誘客ができないコロナ禍の指標がまったく定まらず、動くにも動けない。何も手を打たなければ、旅行ムードが回復する頃には忘れ去られているでしょう。どの地方自治体もそれだけは避けたいはずです。

Q.DX化はコロナ禍において地方の広報課を救う手立てなのかもしれませんね。

小嶋さん:冒頭の話にも戻りますが、成果が見える化できるものを基礎変数とし、イベントへの来場者数のような正確な計測ができないもの、因果関係が追えないものは従属変数とすると決めました。そのうえで、基礎変数を上げることだけに注力し、その結果従属変数もついてくるだろうという考え方をとっています。

Q.大きなシフトですね。その方針を進めるにあたり大切なことはなんでしょうか。

小嶋さん:一番大切にしているのは「誰に対しての情報発信なのか」を明確にすること。いわゆるセグメンテーションです。ターゲットが定まることで、市場規模は小さくなりますが逆に情報は届けやすくなり、その市場での相対的な情報流通密度も上がります。リリースの文面や配信先の判断も楽になりますね。

Q.今後さらなるDX化に向け、「PRオートメーション」をどのように活用していきたいですか?

小嶋さん:記者プロフィールの充実ですね。記者の方々のお名前と、書かれた記事が紐づけられるので、より興味関心が高い内容を送りやすくなると思います。今後、広告換算や記事のPV数の集計精度も高まっていくと聞いておりますので、その点も期待しております。

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